植毛後にくせ毛になるのはなぜか?―毛包の構造から考える原因と予防
自毛植毛では、主に後頭部から採取した毛髪を、薄毛が気になる部分へ移植します。移植された毛髪は、基本的には採取元の性質を維持して成長します。
ところが、もともと直毛だったにもかかわらず、植毛後に生えてきた毛髪がカールしたり、縮れたりすることがあります。
この現象は、英語で Post-Transplant Curly Hair や Post-Transplant Kinky Hair と呼ばれています。
なぜ、直毛だった毛髪が移植によってくせ毛になるのでしょうか。
今回は、毛髪が曲がる仕組みを説明したうえで、植毛後のくせ毛の発生原因と予防方法について、医学的なエビデンスをもとに考えてみます。
植毛後のくせ毛は、どのくらいの頻度で起こるのか?
2024年、韓国のParkらは、女性で生え際に植毛を受けた980人を対象に、術後のくせ毛について調査した研究を発表しました。
その結果、38人、約3.9%に移植後の毛髪がカールする現象が認められました。
38人のうち36人では術後約4か月からカールした毛髪が生え始め、残りの2人では術後6〜8か月頃からカールが目立つようになりました。
後者の2人については、既存毛による毛髪の成長方向への干渉や圧迫が関係していた可能性も指摘されています。
なお、この研究で認められたのはカール毛であり、強い縮れ毛は報告されていません。
つまり、植毛後にみられる軽度のカールと、強く縮れた毛髪は、区別して考える必要があります。
また、3.9%という数字は女性の生え際への植毛における報告であり、男性を含むすべての植毛症例に当てはまるわけではありません。
そもそも、なぜ移植毛は曲がるのか?
毛髪の形状は、毛包の構造と、毛包内部で毛幹が形成される過程によって決まります。
毛髪は、毛球部にある毛母細胞が増殖・分化することで形成されます。その後、毛幹を構成する細胞が角化し、ケラチンなどのタンパク質によって毛髪の構造が作られます。
直毛では毛幹が比較的対称に形成されますが、くせ毛では毛幹内部の細胞構造や角化に非対称性が生じています。
例えば、毛幹を構成する皮質細胞の種類や配置が左右で異なると、毛髪の曲がり方に影響すると考えられています。
また、毛包そのものの湾曲や、毛幹の断面形状も関係します。
ここで重要なのは、毛髪の形状は、単に皮膚から生える角度だけで決まるわけではないということです。
毛包が正常に生着していても、毛幹を形成する過程に異常が生じれば、くせ毛になる可能性があります。
原因① グラフトへの機械的損傷
植毛後のくせ毛の原因として、まず考えられるのが、移植するグラフトへの機械的損傷です。
植毛手術では、毛包の採取、トリミング、移植という複数の工程でグラフトを操作します。
この過程で毛球部や毛包周囲の組織に過度な力が加わると、毛幹の形成に影響する可能性があります。
特に注目されているのが、内毛根鞘(Inner Root Sheath)です。内毛根鞘は、成長中の毛幹を取り囲み、その形状を支持する構造です。
2020年にISHRSの Hair Transplant Forum International に掲載された症例報告では、植毛後の縮れ毛について、内毛根鞘の損傷によって毛幹が不均一に形成される可能性が考察されています。
また、鉗子による圧迫や毛球部への外傷なども、原因候補として挙げられています。
ただし、これらは症例報告と毛包の構造から導かれた仮説であり、個々の操作がくせ毛を引き起こすことを直接証明したものではありません。
それでも、グラフトへの機械的負荷をできる限り減らすことは、生着率だけでなく、移植後の毛髪の品質という観点からも合理的だと考えられます。
原因② 毛包周囲の線維化
次に考えられるのが、移植後の創傷治癒に伴う毛包周囲の線維化です。
植毛では、レシピエントサイトと呼ばれる移植孔を作成し、そこにグラフトを挿入します。
移植後、周囲の組織では炎症反応と創傷治癒が起こります。
この過程で毛包周囲に線維性組織が形成されると、毛包が圧迫されたり、変形したりする可能性があります。
毛包が変形すると、毛幹を形成する方向や内部構造に非対称性が生じ、結果として毛髪が曲がるという仮説です。
実際、植毛後の縮れ毛を組織学的に検討した症例報告では、毛包周囲の線維化が原因候補として指摘されています。
ただし、線維化がくせ毛を引き起こしたのか、毛包損傷と線維化が同時に起きたのかは明らかではありません。
したがって、現時点では毛包周囲線維化を、くせ毛の確立した原因と断定することはできません。
原因③ レシピエントサイトの深さ
植毛後のくせ毛には、レシピエントサイトの深さが関係している可能性も指摘されています。
2023年に発表された A Practical Guide to Hair Graft Placement Using the Sharp Implanter Method では、移植孔が深すぎる場合、周囲組織への損傷や瘢痕形成が生じ、術後の縮れ毛につながる可能性があると述べられています。
ただし、この論文は移植孔の深さとくせ毛の発生率を直接検証した研究ではなく、深さの異なる移植孔を比較して、くせ毛の発生率に差があることを示したものでもありません。
したがって、深すぎる移植孔がくせ毛の原因になるという考えには一定の合理性がありますが、現時点では仮説の段階にとどまっています。
レシピエントサイトの深さと術後のくせ毛との関係については、今後の臨床研究による検証が必要です。
植毛後のくせ毛は自然に治るのか?
植毛後のくせ毛は、一時的な場合もあれば、長期間持続する場合もあります。
一時的なくせ毛では、移植直後の毛包への負荷や、創傷治癒に伴う環境の変化によって、毛幹形成が一過性に乱れている可能性があります。
その場合、毛包の状態が安定し、毛周期が進むにつれて、毛髪の形状が改善することも考えられます。
一方、毛包に持続的な構造変化が生じている場合には、くせ毛が長期間残る可能性があります。
ただし、これらの機序と自然経過の関係を明確に検証した研究は限られています。
また、術後早期に短い毛髪が曲がって見える現象と、十分に成長した毛髪が持続的に縮れる現象は、分けて評価する必要があります。
植毛後のくせ毛を防ぐには?
ここまでの機序を踏まえると、予防には主に3つの観点が重要だと考えられます。
第一に、グラフトへの機械的損傷を最小限にすることです。
採取時の毛包損傷を避け、トリミングでは必要な組織を温存し、移植時には毛球部や毛包を過度に圧迫しないことが重要です。
第二に、レシピエントサイトを適切に作成することです。
移植孔が深すぎる場合には、過剰な組織損傷や瘢痕形成が生じる可能性があります。
また、移植孔の幅や角度がグラフトに適合していなければ、挿入時に余分な力が加わることも考えられます。
そのため、グラフトの大きさや移植角度に応じて、適切な移植孔を作成することが重要です。
第三に、移植部の過剰な炎症や組織損傷を避けることです。
必要以上の切開や繰り返しの操作を減らし、感染などの術後合併症を適切に管理することは、毛包周囲の環境を良好に保つうえで重要です。
ただし、これらの方法によって、くせ毛の発生率が実際に低下することを直接証明した比較試験は十分ではありません。
また、ラインスリットとホールスリットのどちらがくせ毛を起こしにくいかについても、現時点で優劣を判断できるエビデンスはありません。
おわりに―生着率だけでなく、毛髪の品質を考える
植毛手術では、生着率が重要な評価指標となります。
しかし、毛包が生着することと、自然な形状の毛髪が生えてくることは、必ずしも同義ではありません。
生着率が高くても、移植後の毛髪が強く縮れたり、周囲の毛髪となじまなかったりすれば、自然な仕上がりにはつながりません。
植毛後のくせ毛には、毛包への機械的損傷、毛幹形成過程の異常、毛包周囲の線維化など、複数の要因が関係している可能性があります。
ただし、その詳しい機序はまだ解明されておらず、予防方法についても十分な臨床的検証が必要です。
だからこそ当院では、植毛手術では単に多くのグラフトを採取し、速く移植するだけでなく、一つひとつの毛包をできる限り傷つけず、周囲組織への損傷も最小限に抑えることが重要だと考えています。
自然な植毛を実現するためには、生着率だけでなく、移植後に生えてくる毛髪の形状や質まで考える必要があるのです。
参考文献
1. Park JH, Kim N, Manonukul K. Post-Hair Transplantation Complication: Kinky or Severely Curly Hair. J Craniofac Surg. 2024;35(2). doi:10.1097/SCS.0000000000009926.
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